「ただいまー」

仕事を終えて帰宅。ああ今日も疲れた。
さて今晩の献立は何にしたものか。
壬晴は好き嫌いはあまりないが小食なのでなんとか栄養を取らせないと。
スープなら飲むだろうか。寒くなってきたし野菜たっぷり入れて暖まるようなのにしよう。
頭の中で献立と冷蔵庫の中身を思い浮かべながら玄関の扉を開いた。

「おかえり」








何故か予定以上の低音の声が聞こえて思わずドアを閉めた。
ドアノブを握り締めたまま、部屋の番号を確認。
間違いなく83号室。
84号室を開けたわけではない。
断じてない。
気のせい気のせいと念じるように帷はもう一度ドアを開いた。

「おい何ドア閉めてんだよ」
「間違えました」

さっきは声だけだったのに今度は何故か姿まで。
もう一度ドアを閉めようとすると雪見の手が伸びてきて阻まれた。

「だから間違えましたって……」
「何だ、俺ん家に行きたかったのか?」
「自分の家に帰りたいんだが」
「ここだよ」

「じゃあなんであんたがいるんだ……!」

俄かに信じがたいが開いたドアの向こうに見えるのは(雪見を除いて)自分の家だった。


「俺の家、乗っ取られたんだよ」

視線を逸らして哀愁たっぷりに呟く雪見に、不覚にもちょっと同情。

「……だからって何で俺の家に」
「お宅の壬晴くんが」
「それで簡単に我が家を明け渡すなよ」
「まあ下心も有り」

ふざける雪見を鞄で殴ってどかすと家の中に入った。
リビングに入ると、雪見も遅れて入ってくる。

壬晴に頼んでおいた洗濯物もちゃんと取り込んである。
……畳み方から見るに、畳んだのは壬晴ではないらしい。


「で、晩御飯は」
「作っておいてきた」
「あんたは」
「食べれてない」

食べるまもなく追い出されたのかこいつは。
情けないと言うかなんというか……。

背広を脱いでハンガーに掛けると腕まくり。
献立の変更は無い方向で行こう。



「寝る前には帰れよ」
「そんな時間に戻ったらマジで殺されるから泊めてくれ」